文章置き場(別館)

基本的にほとんど更新しない予定です。まとまった文章を書いた時だけ記事投稿します。本館→http://d.hatena.ne.jp/semimaruclimb/

小説素材01~04

 小説を書きたいという気持ちはあるし、アイディアだけは次から次へと掃いて捨てるほど思いつくのだが、あいにく私は文章力・構成力ともに不足しているし、細部を練り込む力量も無いから、作品として仕上げることができない。アイディア倒れに終わってしまった小説素材4本を、ここに書き留めておきたい。 


素材01

 

登場人物 

高橋 美紅(たかはし・みく) : 大手企業の一般職。23歳。両親と同居。自尊感情が低く依存心が強い。几帳面な性格で、学生時代の成績は良かった。19世紀の欧米文学に詳しい。甘い物好き。ペットのハムスターを大切にしている。 
  
瀬川 : 歯科医。42歳。夫と中学生の娘との三人暮らし。大学時代は山岳部で経験を積み、卒業後も社会人山岳会に所属。特に沢登りを愛好する。

 

滝谷 : 中堅建設会社の事務員。30歳。事実婚の夫と二人暮らし。実家は民宿経営で、山菜料理、イワナ料理、ぼたん鍋などを得意とする。猟銃免許を持ち、イノシシの解体をやるほか、魚の内臓に異常な興味を示す。時々「料理」を「解剖」と言い間違えることがある。

 

沢村 : スポーツジムのインストラクター。26歳。身長182cm。全日本ボディービル大会(架空大会)の女性部門で優勝経験あり。あだ名は「シュワ村」。登山経験は浅いが、歩荷(ボッカ)役として活躍する。

 

松田 : 美紅の上司であり、交際相手でもある。37歳。離婚経験あり。前妻との間に子供が二人いるが、養育費は踏み倒している。モラハラ気質。弁が立ち、周囲からの評判はすこぶる良い。自分より格下だと見なした相手に対し、人格を否定するようなことを頻繁に口にするほか、属性を貶めることも多い。

 

江藤 : 美紅の同僚。一般職。23歳。以前、松田に言い寄られ断って以来、松田から執拗な中傷・嫌がらせを受け続けている。

 

地名 

赤トガ山 : 架空の山。標高2000m級。東側に広大なブナ・ミズナラ原生林を有する。

 

逆崩川(さかくずれがわ) : 架空の川。赤トガ山水系の源流部はイワナ釣りの人の間では有名。

 

ストーリー   

 美紅と松田は、ゴールデウィークを利用して、赤トガ山の麓に建つリゾートホテルに遊びに来ていた。美紅はハムスターをプラケースに入れて連れて来た。
 他の宿泊客が「赤トガ山のてっぺんからの眺めがすごくいい」と会話しているのを聞き、思いつきで登ってみることにした。美紅も松田も登山経験はゼロ。ジーパンにスニーカーの軽装。登山開始時刻には遅すぎる午後2時頃に登り始めた。登山道の整備状況は良好だったが、経験の無い二人にとっては想像以上に険しい悪路に感じられ、すぐにへばってしまった。「頂上はまだか」などと文句を言いながら、喘ぎつつなんとか歩いた。松田は不機嫌になり、美紅に対し、「役立たず。もっとシャキシャキ歩け」と命じ、二人は口論になった。カッとなった松田は美紅を斜面から蹴り落とし、そのまま一人で下山した。 

 服は泥だらけになり、あちこち擦り傷を負った美紅が斜面をよじ登って登山道に戻った時、松田の姿はなかった。てっきり松田は先に頂上へ向かったのだと勘違いした美紅は、松田に追いつこうと必死に登るも追いつくはずもなく、松田と連絡を取ろうにも携帯電話も圏外だった。日が傾きかけ夕方の気配が濃くなった頃、ようやく松田は既に下山したのではないかと思い当たった。 

 美紅は登山道を下り始めた。周囲はどんどん暗くなり、美紅はパニックに陥った。しばらくは携帯電話画面の明かりを頼りに歩いたが、間もなくバッテリーが切れてしまった。当然ヘッドランプなど持っていない。足元も見えなくなり、歩くことはできなくなった。こうして美紅は、生まれて初めて野宿を経験することになった。
 山の夜は、美紅が想像したこともないほどの漆黒の闇だった。自分の手すらも見えない。それどころか、自分が目を開けているのか閉じているのかも分からないほど真っ暗だった。そして、底冷えのする寒さだった。美紅はうずくまってひたすら身を縮め、かじかんだ手を両腿に挟んで震えた。風が樹木の梢を揺らす音や、近くの茂みがガサガサいう音にいちいちビクビクした。 

 あまりの寒さに一睡もできないまま、長すぎる夜が終わり、近くでクロツグミが素晴らしい歌声を張り上げた頃、空は明るくなり始めていた。美紅は再び歩き始めた。すっかり明るくなり、改めて周囲を見て、自分のいる場所は登山道の上ではないことに気付いた。美紅は既に道迷い状態に陥っていた。山の行動原則を何も知らない美紅は、ただ闇雲に下ることだけを考え、南西に向かう正規登山道から逆方向に離れていき、逆崩川の源頭部に辿り着いた。そこから先は広大な原生林地帯である。美紅はそのまま沢沿いに下りようとしたが、すぐに小規模な滝が現れた。滝の脇の斜面を巻いてなんとか突破したが、結果的にますます原生林の奥深くに入り込んだだけだった。事態の悪化を招いたまま、二度目の夜を迎えた。

 三日目、沢沿いの下降を続けようとするが、前日よりさらに落差のあるスラブ滝が現れ立ち往生してしまった。真昼になり気温が高くなると、睡魔に襲われた。前夜も前々夜も寒すぎて眠れなかったのだ。冷たい風が吹いて目が覚めた時は既に夕方だった。

 四日目、明け方の冷え込みは緩まったが、その後も気温は上がらず、雨が降り始めた。山の雨は容赦なく体温を奪う。美紅は大岩の下にスペースがあるのを見つけ、潜り込んだ。そこなら雨は当たらなかったが、冷たい風が吹き込んできた。美紅は風が侵入してくる隙間に土を詰めた。気温は下がり、雨は降り続け、沢はみるみる増水していった。夕方、雨足が弱まったわけでもないのに水かさが減った。その後、鉄砲水が発生し、濁流が音を立てて沢床を駆け抜けた。美紅のいる場所には水は到達しなかったが、美紅は不安でたまらなかった。
 甘いもの好きの美紅は、デイバックいっぱいに菓子を詰め込んで持ってきていたが、これが幸いした。ポテトチップス一袋は既に食べ尽くしてしまったが、まだキャンディ、ビスケット、ピーナツチョコなどが残っていた。一日に二回、菓子を一個ずつローテーションしながら食べることにした。一枚のビスケットを30分近くかけて少しずつ齧り、舌で溶かすようにして食べた。500mlペットボトルには沢水を汲んでおいた。 

 五日目、雨は止んだが一帯はぬかるみ沢は大荒れで、行動できる状況ではなかった。どのみち下流側には滝が待ち構えていて、もう下降は無理だった。 以後、美紅は大岩の下のスペースでじっと過ごすことになる。 

 相変わらず寒さのあまり夜は眠れなかった。沢音が常に聞こえ続けていたが、時折どこからともなく人の話し声が聞こえてくることがあり、恐怖に駆られて暗闇に目を凝らした。真っ暗な視界の端に、ぼんやりした白いものが動くのが見えた。明け方わずかに明るくなった時、醜怪な小人が美紅の腕につかまっているのが見え、恐怖の声を上げながら振り払った。 

 夜は寒さに震え幻覚幻聴に怯え、気温の上がる昼間に眠り、一日二回、菓子を一個ゆっくり食べる日々が続き、もう日付も分からなくなった。手足の指は軽度の凍傷で動かなくなり、用を足すためにズボンの上げ下ろしをするのにも四苦八苦するようになった。菓子も次第に減ってきた。
 いつものように昼間に眠っていたが、人の声が聞こえてきてぼんやりと目を覚ましかけた。夜中に人の声が聞こえることは頻繁にあったが、昼間に聞こえるのは初めてだった。またうとうとと眠りかけた時、さらにはっきりと下の方から人の声がした。幻聴ではなく本当に誰かいるのだ、と確信した美紅は大声で助けを求めた。 

 瀬川、滝谷、沢村の三人パーティは、逆崩川を遡行していた。昨日は沢沿いにテントを張り、イワナ釣りも料理も得意な滝谷が素晴らしい夕食を振舞った。もっとも滝谷イワナの内臓について妙に詳しく解説を始めた時は、瀬川も沢村もドン引きしていたが。
 三人の中では沢村が唯一の沢登り初心者であり、支点取りやホールド・スタンス取りについて瀬川が細かく指示を与えた。稜線直下の最後のツメは猛烈な笹の藪漕ぎになることも伝えた。沢音に負けじと大声で指示出し・返答を交わしていると、はるか上の方から「助けてー」という声が微かに聞こえてきた。瀬川が「誰かいますかーっ」と呼びかけたら、確かに上流側に人がいるのが確認できた。「今 行きまーす」と瀬川は答えた。
 美紅の足指は軽度の凍傷で踏ん張りはきかなくなっていたが、まだ少しは歩くこともできた。岩の下の隠れ場所から出て、ふらつきながらも下流側の滝に向かって歩き出した。ヘルメット姿の三人組は、ザイルで確保しながらスラブ滝を登ってきた。こうして美紅は、遭難22日目にしてようやく発見された。 

 谷底の地形で外部との通信はできず、直ちに救助要請を出すことはできなかった。どのみち救助ヘリが近づける地形ではなく、いったん美紅を尾根上へと搬送する必要があった。美紅の意識ははっきりしていて、自分の名前を名乗り、三人組の質問にもきちんと返答した。衰弱は激しかったが目立つ外傷はない。取り敢えず一次救護しようということになり、近くにテント設営適地を見つけ、ガイド用にザイルを渡し、沢村が力技で美紅を引き上げた。
 沢登り三人組はテントに美紅を引っ張り込み、シュラフでくるんだ。すぐに湯を沸かし、濃いココアを少しずつ美紅に飲ませた。久しぶりに温かいものを口にした美紅は、ただひたすら涙を流し続けた。瀬川は美紅の凍傷に気付き、解凍すべきかどうか迷ったが、鎮痛剤を持っていないこと(解凍には激痛が伴う)、美紅を搬送する必要があること(いったん解凍したのち再凍傷すると予後が非常に悪い)から、解凍は見送った。
 落ち着いたところで、救助要請を出そうということになり、瀬川と滝谷が通話可能地点を探しに出かけ、沢村がテントに残った。沢村はできるだけ美紅が暖かく過ごせるように気を配った。
 薄暗くなりかけた頃、瀬川と滝谷は戻ってきた。稜線上で通話に成功し、GPSログからテント座標を伝え、明朝すぐに救助隊が来るとのこと。
 その夜は、沢登り三人組が交代で美紅の世話をした。美紅は遭難以来初めて、夜に眠ることができた。 

 翌朝、救助隊と合流した沢登り三人組は、一緒に美紅を搬送した。尾根上に吊り上げ救助可能場所を発見してホバリングしていた救助ヘリに美紅は収容され、三人組はダウンウォッシュの烈風に晒されながらヘリを見送った。 

 時間は遡ってゴールデンウィーク、美紅を斜面から蹴り落として一人で下山した松田は、そのままホテルに戻ったが、美紅は戻ってこなかった。翌日、さすがにまずいことになったと思いながらも、松田は車を運転して帰宅した。
 出社日、美紅の両親から、娘が失踪したとの連絡が会社に入ったが、松田はそらとぼけた。美紅は両親に対して、友人宅に遊びに行くと嘘をついていたし、赤トガ山の山麓ホテルには、二人は偽名を使って泊まっていたから、松田さえ口を閉じていれば、美紅が赤トガ山で遭難していることは誰にも知られることはなかった。松田は証拠隠滅のために、車に積んであった美紅の荷物を処分し、美紅のハムスターを溝に捨てた。数日間は、美紅が戻ってくるのではないかと松田は内心びくびくしていたが、遭難後一週間が経過した頃、美紅は死んだと確信した。行方不明になったままの美紅は失職扱いになった。
 美紅が生還したニュースを聞いた時、松田は驚愕した。松田が美紅を蹴り落とし、赤トガ山で遭難していることを知りながら捜索依頼も出さずに放置したことを知る当人が、生きて戻って来た。松田は職場で、美紅を中傷する噂を流し、過去に自分が犯した仕事上のミスを全部美紅のせいにした。松田の周囲の社員たちの大半は、口達者な松田に同調したが、江藤は違った。美紅失踪時には美紅の話題を避けるようにしていた松田が、美紅の生還後に突如として美紅を中傷し始めたことを不審に思った。松田が美紅のせいにしているミスは実は松田のミスであることを知っている社員や、美紅とほとんど面識のない社員までもが、尻馬に乗るように美紅叩きに興じる有様は、江藤には見慣れた構図だった。周囲からの後ろ盾を得た松田が増長して中傷をエスカレートさせていくのも、江藤は既に経験済みだった。 

 病院に収容された美紅は両親と再会し、感覚が無くなっていた手足の指に激痛の感覚が戻り、衰弱状態から順調に快復していった。大切なハムスターのことが気がかりでたまらなくなった美紅は松田に電話したが、電話に出るなり松田は美紅を罵倒した。美紅はハムスターがどうなったのか聞き出そうとしたが、松田は「嘘つき! でっち上げだ!」などと支離滅裂な罵詈雑言を喚いて電話を切った。
 その後、江藤が美紅を見舞いに訪れた。 

解説  

 後半、主人公がDVモラハラ相手との共依存関係を断つ過程がうまくまとまらなくて、半端なところで投げてしまった。共依存をスムーズに解消するには、相手と物理的に離れることと、外部協力者が存在することが重要になる。外部協力者の役回りは、江藤と沢登り三人組に担当させることにした。

 


素材02 

 

概要 

 素材01では全く登場しなかった、瀬川の夫が主人公。荒唐無稽系の痛快アクションと、やたらめったら現実的な人物・職能設定とのギャップがポイント。

 

ストーリー  

 瀬川(39歳)は電気工事士。歯科医の妻と中学生の娘との三人暮らし。いつもヨレッとした作業服姿で、腰道具を装着。「安全第一」の文字と緑十字入りのヘルメットは、もともと白かったが、薄汚れてネズミ色になっている。冬は腹巻にホッカイロを忍ばせ、ドカジャンを羽織る。屋内配線から高圧架線まで幅広く手がけ、高所作業も慣れたもの。たまにスーツを着ると、あまりの似合わなさに妻に笑われてしまう。妻に治療されることを断固として拒み、虫歯になった時はわざわざ別の歯医者に通う。そんな彼には裏の顔があった。彼は電動工具を武器に悪と闘うヒーローだったのだ。高所作業経験を活かして敵のアジトに侵入し、配電図を頼りに電気供給を断ち敵を混乱させ拿捕する戦法を得意とする。
 とあるビルの最上階展望ラウンジが武装集団に占拠され、従業員と客を人質に立てこもった。瀬川はさっそく人質の救助に向かう。

 

解説  

 ごく普通の市井の人が、緊急時にヒーローになるという、昔からよくある変身ヒーローもののテンプレ通りの作品。ただし、現実で救助作業中に二次被害に遭うケースが多発していることに配慮し、主人公は決して無謀な真似をしないように描くつもり。レスキュー講習においても、救助者はまず自分自身の安全確保を第一にすべしと教え込まれる。だから主人公は、救助作業の際に、まず壁面にケミカルアンカーを打ち込み、安全第一ヘルメット(ネズミ色)をかぶり、胴綱で安全確保をはかる。
 また、ヒーロー変身時の主人公の行動は、すべて日常における訓練の帰結であることも描写しておく。普段やっている高所での安全第一作業や、高圧活線を扱う際の慎重さや、道具類の使いこなしや、ケースバイケースの事例での適切な判断訓練などが、緊急時の行動に直結する。それと、主人公は普段の日常生活中で、ごく当然のように人助け訓練を積んでいる。妻より先に帰宅した時はさっさと夕食を作り、あとは温めるだけでOKの状態にしておき、掃除機をかける。慣れているので手際もいい。自宅でくつろいでいる際にコーヒーが飲みたくなったら、妻と娘にも要るかと声をかけ、人数分を淹れる。家族内で唯一の喫煙者であり、灰皿は自分で洗う。ただし洗濯はしない。娘が自分の下着を父親に見られるのを嫌がる都合上、洗濯は妻か娘が担当することになっている。
 普段 何もしない人は、緊急時にも何もできないし、余裕ぶっこいた平時に他者を踏みつける人は、緊急時にはより露骨な行動を取ることを示すため、比較対象を作中に描くことにした。展望ラウンジに来ていた夫婦の夫は、妻を顎で使いながら、「いざという時はお前を守るから、黙って俺に従え」と豪語するが、いざとなったら妻を弾よけ代わりに前に出し、自分は妻の後ろに隠れてスタコラ逃げ出すシーンを挿入。

 

 荒唐無稽ヒーローものではなく現実路線ものとして、大震災で壊滅した都市を舞台に、ライフライン復旧に向けて瀬川が尽力するストーリーも考案中。

 


素材03 

 

概要  

 霊感商法や怪しげな健康法に嵌りまくった主人公が、周囲の人たちを振り回すドタバタ・コメディ。

 

登場人物  

霊美(たまみ) : 資産家。48歳。土地を所有し、不動産収入を得ている。夫とは15年前に死別。家中におどろおどろしい魔除けのお札を貼り、何をかたどったのかよくわからない奇怪な厄除け人形を何体も置いている。愛用のノートには、除霊の儀式一覧をびっしり書き連ねている。 

 

理一郎(りいちろう) : 霊美の一人息子。18歳。今春、難関大学の工学部に合格し、通い始める。幼い頃から霊美に、黒猫が道を横切ったら三度回って「醍朝勅徴公文(だいちょうちょくちょうこうもん。大腸直腸肛門と聞こえる)」と魔除けの呪文を唱えなければ魂を抜かれる、と教え込まれているので、黒猫を見ると脊髄反射してしまう。

 

ルリカ : 理一郎の工学部の先輩。20歳。

 

 

法明大師(ほうみょうだいし) : 霊美の「かかりつけ霊媒師」。67歳。霊美は肩や腰が痛くなるとすぐに法明大師のもとへ行き、大師は「肩に霊が二体 取り憑いている」などと言って除霊し、霊美の信用を得ている。霊美に様々な厄除けグッズを販売している。理一郎も子供の頃は具合が悪くなるたびに大師のもとへ連れて行かれ、霊美同様に大師を信奉していたが、高校生になる頃には大師はペテン師だという結論に達し、毛嫌いしている。

 

ストーリー  

  膝が痛くなって法明大師の元に訪れた霊美さん、大師に「知り合いの女の人が中絶した水子の霊が膝に取り憑いてます」と言われ、お祓いしてもらって痛みが取れた。元気になって車を運転して帰宅する途中、一時停止を無視して自転車の男性を轢きそうになり、男性に「轢かれそうになるなんて、私が祓ってもらった水子の霊があなたにうつったかもしれない。法明大師のところへ行こう」と言い、相手方は激怒。「あんたの不注意のせいだろが! 霊のせいにするな!」と怒鳴られるが、霊美さんは「祓ってもらわないとまた災難に遭いますよ」と動じない。
 その頃ルリカは、理一郎の家に届け物をしに行ったが、家のあちこちに貼られた奇怪なお札や変な置物を見てドン引き。理一郎が玄関先でルリカを応対していた時に霊美さんが帰宅。ルリカを見るなり、「あんた、中絶した?」と質問。ルリカは中絶経験こそなかったものの、霊美さんのあまりの無神経さに唖然。理一郎も青ざめた。その時、道路上を黒猫が横断。理一郎は条件反射でその場で三度回って、「醍朝勅徴公文」と唱えてしまい、ルリカは逃げ出した。
 ことの顛末をルリカが学友に話したために、理一郎のことを「あいつ頭おかしい」という噂が学内で流れた。そういう家庭に育ち、そういうものだと思っていた理一郎だったが、改めて、傍目にはやはり異常なのだと再認識し、落ち込んだ。理一郎のことをイカレた人だと思って敬遠したルリカだったが、理一郎から事情を打ち明けられ、理一郎に同情するようになった。
 理一郎は、せめて外から見える場所に変なお札を貼らないように、他人に無神経なことを言わないようにと霊美さんを説得しにかかるが、もちろん霊美さんに通じるはずがない。霊美さん最強! 霊美さん向かうところ敵なし! 今日も霊美さんは元気だった。

 

解説 

 

 霊美さんのモデルになった人物は、私の知人である。その知人のタガの外れっぷりは凄まじく、知人の言動をそのまま流用すれば霊美さんネタには事欠かないが、それでは個人特定できてしまってまずい。したがって霊美さんの行状は全て創作ネタだが、本物の破壊力の足元にも及ばず、いまいち面白くない。
 法明大師のモデルとなった人物も実在し、その人は、歴史修正主義と性差別を全面に打ち出した宗教右翼関係者であり、キナ臭いことこの上ない。だが、作品中ではコメディタッチを失わない程度にとどめ、法明大師の発言の端々にダダ漏れする強烈な差別意識と、そんな大師に心酔する霊美さんの様子をコミカルに描きたい。

 


素材04 

 

解説  

 

  かつて、地図に関するデタラメな俗説が世間一般に蔓延していることに問題意識を持ち、俗説の発生源となっているベストセラー本『話を聞かない男、地図が読めない女』を読んでみた。この本のレビューを見たら、アカデミズムの人たちも含め、ほとんど絶賛評ばかりだったので、相当巧妙に書かれた本かと思ったら、前書きをざっと眺めただけであっさりトンデモ本だと見破れる低レベルな本で拍子抜けした。この本に対する私の見解はこちら。 

 

『話を聞かない男、地図が読めない女』 (1) - 影響力の絶大さ
http://d.hatena.ne.jp/semimaruclimb/20111108/1320757630
『話を聞かない男、地図が読めない女』 (2) - 男脳・女脳テスト
http://d.hatena.ne.jp/semimaruclimb/20111112/1321103706
『話を聞かない男、地図が読めない女』 (3) - 男は狩りをしない
http://d.hatena.ne.jp/semimaruclimb/20111118/1321611819
『話を聞かない男、地図が読めない女』 (4) - 空間能力と地図
http://d.hatena.ne.jp/semimaruclimb/20111122/1321970889
『話を聞かない男、地図が読めない女』 (5) - ナビゲーションと地図
http://d.hatena.ne.jp/semimaruclimb/20111125/1322229265 

 

 残念ながら、生物学の皮をかぶったこの手の俗流性差論は、似たり寄ったりな言説が現在に至るまで繰り返し再生産され続けている。この手の論者は、口先では「違いであって優劣ではない」と綺麗事を言うが、「優劣ではないのだから格差があるのはおかしい。女性にも男性と同等の金銭と権力を付与すべき」とは口が裂けても言わないから、実に分かりやすい。要するに、金と権力に結びつくことは男性に適し、低賃金労働やタダ働き(シャドウワーク)は女性に適していると述べているだけ。上っ面にちょっとだけ砂糖を振りかけたところで、中身はただの差別であり、所詮は搾取の正当化にすぎない。昔、詩や文学が富と権力への近道だった時代には、女は文学には向かないと言われたものだが、文系の金銭的価値が低下した現代では、女は文系向きだと言われるようになったしな。
 というわけで、この手の男脳女脳論のパロディを書くことを思いついた。架空の未来社会でベストセラーになり、各方面から大絶賛された本、という設定である。 

 

社会設定  

 道の病原体に侵された人類には子どもができなくなり、未曾有の少子化状態に陥った。人工的に胎児を育成する技術のおかげでなんとか子孫を残すことに成功したが、人類にとっての最重要課題は子どもを育てることであり、他のことは補助業務にすぎないと認識されるようになった。政府は子育てに巨額の助成金を投じ、育児を専門に行なう人(かつては専業主婦/主夫と呼ばれた人)の平均年収は、現在日本円に換算して数十億円に達した。保育士やベビーシッターなども、億単位の年収が見込める花形職業となった。一方、航空機のパイロットやエンジニアなどは、平均年収150万円以下の低賃金労働となり、金融トレーディングは完全にタダ働きのシャドウワークと化した。
 そんな社会で、男女の脳の違いを「科学的に証明した」本がベストセラーとなった。

 

内容   

「男と女はちがう。どちらがよい悪いではなく、ただちがうのである。」という書き出しで始まる。
 育児に携わる業種のほとんどは男が占め、エンジニアや金融トレーダーの大半は女が占める。航空機パイロットの95パーセントは女である。これは差別ではなく、男女がそれぞれの適性に見合った職業を選択したごく自然な結果にすぎない。家政学を専攻する学生の大半は男であり、理工系の学生の大半は女である。
 育児は非常に体力を使うので、力のない女には向かない。これは政治や社会の問題ではなく、科学や生物学の次元の問題である。アファーマティブ・アクションにより、育児を担当する女を増やそうと試みる運動もあるが、百害あって一利なしである。女が男並みに働いたところで、当の女性自身の幸せにならない。男女がお互いの違いを認め合い、それぞれの役割を果たすことが大事である。